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「偉大な経験になる」レスリー・キー氏がそう感じたLGBTQ+カミングアウト・フォト・プロジェクト「OUT IN JAPAN」。

LGBTQ+カミングアウト・フォト・プロジェクトとして2015年にスタートした「OUT IN JAPAN」。約7年かけて撮影した約2,000人分のポートレートが、2022年12月に写真集になります(予定)。 今回は、本プロジェクトで撮影を担当した世界で活躍する写真家レスリー・キー(LESLIE KEE)氏にインタビュー!「OUT IN JAPAN」に関わったきっかけやプロジェクトで感じた想いについて語っていただきました。


すべて鮮明に思い出せる。2015年、アノ日のこと。

「OUT IN JAPAN」と関わったきっかけは、主催者であるゴン(※)に「性的マイノリティの人たちのためのカミングアウトの企画がやりたい」と相談されたことです。ゴンとはあるファッション雑誌のLGBTQ+企画で出会ったのですが、わざわざ僕の事務所まで来てくれて、打ち合わせの後はみんなで神宮前のお店でご飯を食べて……。

ロゴやデザインも何も決まっていない状態で、みんなでアイデアを出しあいながら企画を進めたんです。僕は「モノクロにしてみよう」「サイズは正方形がいい」などと、写真に関する提案をして。2015年頃はちょうどInstagramが流行はじめていた頃だったので、撮った写真をアイコンに登録してもらったり、投稿してもったりするイメージが浮かんだんですよね。カミングアウトできないと悩んでいる人も、「OUT IN JAPAN」で撮影した写真が欲しいというきっかけから、カミングアウトする勇気が持てるかもしれないと思ったんです。

あの日のシチュエーションはぜんぶ思い出せます。それだけ、衝撃だったんですよ。当時はまだ、LGBTQ+に関するコンテンツが今ほど生まれていない時代。ドラマや映画でもほとんど扱われず、多様性やダイバーシティという言葉も今ほど知られていませんでした。その中で話をもちかけられて、「『OUT IN JAPAN』に参加することは、自分にとって偉大で、新しい活動になる」と感じたんです。僕はこれまで、写真家としてたくさんの現場を経験してきましたが、「OUT IN JAPAN」はそのどれとも違う特別な現場。写真家というよりも、活動家として参加している感覚が強いかもしれないですね。

※ ゴン:本名、松中 権(まつなか ごん)。LGBTQ+社会活動家。「OUT IN JAPAN」を主催する認定NPO法人グッド・エイジング・エールズの代表。


何気ない会話から生まれるLucky Discoveryがある。

「OUT IN JAPAN」は、7年間で20回以上の撮影会を開催してきました。第15回 からはアダストリアに衣装提供もしてもらって。毎回、何十人、何百人もの人が集まってくれるので、ひとりの方を撮影する時間はほんの数分。短い時間ではありますが、僕は必ず、みなさんと会話をすることを大切にしてきました。
だって、撮影会イベントに来てくれた人の大半はプロの写真家に撮影なんてされたことがないでしょう。撮影機材を見たことがない人もいるだろうし、絶対に緊張しているはず。少しでも安心してもらえるよう、フレンドリーに声をかけてきました。それに、ちょっと話をするだけで撮影もぜんぜん違ってくるんですよ。声の雰囲気や話すスピードから相手のキャラクターが見えてくる。それがヒントとなって、その人の「こう撮られたい」に近づけると思っています。

YouTuberとシンガーソングライターとして活躍していると話すカップルを撮影したときに「出会いはいつ?」「知り合ったきっかけは?」と聞いたら、なんとふたりの出会いは10年前で、当時はどちらも公務員として働いていたことがわかったんです。もし、何も質問せずに撮影していたらそのエピソードを知ることはできなかった。でも、質問したことで撮影に関わる大きなヒントが知れた。何気ない会話がLucky Questionにつながり、Lucky Discoveryが生まれる。そういう発見を何度もしてきたからこそ、どれだけ短い時間でも、撮影時の会話は大切にしていますね。


誰かへ、未来へ想いを伝えるために。写真集としてカタチにのこす。

2022年12月に完成予定の写真集「OUT IN JAPAN」には、約2,000人分のカミングアウトフォトが掲載されます。これだけの数のポートレートを1冊にまとめた経験は、僕自身もはじめて。どの写真にもカミングアウトしてくれた人の生き様が写っていて、まさに「生命力のポートレート」だと感じています。ひとりでも多くの人に、世界中の人に、この写真集を届けたいですね。まずは、クラウドファンディングでサポートしてくださった方々の手にお届けします。

今の時代は本を読まない人も多いと思いますが、僕は本が好きだし、本が持つ力はとても大きいと感じています。インターネットで調べものをすればいくらでも自分に興味のあるものが見つかりますが、自分で調べようと思わないと出会えないこともまだまだ多い。LGBTQ+に関してもそう。
でも、例えば「OUT IN JAPAN」に賛同してくださっている渋谷区や企業の施設・オフィスや、図書館や学校といった公共施設に写真集を置いてもらえたら……さまざまな職業や年齢、立場の人に手にとってもらえるチャンスができますよね。もし、企業の社長や政治家などキーパーソンとなる方が写真集を見て、「日本はもっとこういう社会になるべきだ」と感じてもらえたら、それがまたワンステップ進むきっかけにもなると思うんです。

こんな風に本としてカタチにのこせば、時代や国を問わず、いろんな出会いが生まれるんですよ。この写真集が存在していれば、ときが経っていつか僕たちがいなくなっても、将来の世代の人たちへ想いを伝えることができますからね。


日本はもっといい方向に進む。
人々の意識が、こんなにも変わっているから。

日本のLGBTQ+に関する意識は、ここ数年でものすごく変わったと思います。
アメリカやヨーロッパなど、世界で見ると同性婚ができる国はたくさんありますが、アジアは宗教問題の壁が大きいことや文化的な問題もあって、LGBTQ+に関する法律や理解が進んでいないのが現状です。そうした背景がある中、日本は特に国民の意識がいい方向へ進んでいると感じますね。

きっとまだまだ、僕たちの活動について理解できない人もいるでしょう。でも、日本という小さい島国で、これだけたくさんの夢と勇気を持っているLGBTQ+の人がいるのだから、これから先、もう絶対に悪い方向にはいかないという感覚はすごくあります。「OUT IN JAPAN」の活動が少しでもその影響に関わっていたとしたら、僕はすごく嬉しい。

だからこそ、2019年に台湾がアジアで初めて同性婚の法制化を発表したときは「なんで日本が最初じゃないの!?」と、ものすごく悔しかったですけどね。「OUT IN JAPAN」がスタートした2015年は渋谷区でパートナーシップ証明書の制度ができた年。その流れもあって、ゴンとずっと「2020年までに日本が同性婚できる国になっていたらいいね!」と話していたので、余計に悔しかった!でも、人々の意識やカルチャーが変化していけば、いずれ法律面もいい方向に変わっていくはず。きっと、未来の子どもたちは性的マイノリティに対して驚かなくなると……そうなってほしいと思います。


誰もが自分らしく生きること。すべて、みんな受け入れること。それが、多様性だと思う。

僕自身も、「OUT IN JAPAN」を続けてきた7年間で考え方がずいぶん変わりました。最初は「LGBTQ+を知らない人に知ってもらいたい」「LGBTQ+を受け入れてほしい」と強く思っていたんですが、プロジェクトを通じていろんな人に出会って、「LGBTQ+の方も、そうじゃない方も含めて、すべて同じ人間である」と考えるようになったんです。そして、「誰もが自分らしく生きるべきだ」と伝えたいと思うようになりました。

多様性という言葉は、LGBTQ+の方も、他の誰にでもあてはまること。きっと、みんなそれぞれに人に言えないことがたくさんあると思います。性のあり方のこともかもしれないし、障がいのこと、それ以外のことかもしれない。その全部を含めて「もっと自分らしく生きること」「すべてみんなを受け入れること」。それができれば、日本はもっともっといい変化をしていくと思います。写真集を通じて、LGBTQ+についてはもちろん、多様性の意味や価値についても、改めて考えてくれる人がふえたら嬉しいですね。

LESLIE KEE(レスリー・キー)
シンガポール出身の写真家。日本をはじめ、アメリカ、フランス、アジアなど世界各国で活動。国内外のスーパーモデルや歌手、セレブリティの撮影を担当する。モデルを大きく映し出した代表作「SUPER」をはじめ、数々の写真集を出版。2022年12月には、日本のLGBTQのポートレートを撮影するプロジェクト「OUT IN JAPAN」の活動を一冊にまとめた写真集が完成予定です。

LESLIE KEE Twitterアカウント(https://twitter.com/lesliekeesuper)

「OUT IN JAPAN」とは?
「OUT IN JAPAN」は、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズが企画・運営するLGBTQ+カミングアウト・フォト・プロジェクト。個人・団体・企業・自治体等との連携を通してWEBサイトや展覧会、写真集などを展開し、性的マイノリティを身近な存在として可視化。LGBTQ+に関する知識や理解を広げるきっかけづくりを行っています。2015年に活動がスタート。アダストリアは2018年 より協力企業として参加し、撮影時の衣装・メイクの協力、クラウドファンディングでの返礼品などを提供しています。

OUT IN JAPAN公式ウェブサイト(http://outinjapan.com/)


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